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英語で普通名詞化した Kabuki

 2009年7月26日(現地時間)で放送されたアメリカのニュース番組「This Week with George Stephanopoulos」におけるノーベル賞受賞の経済学者ポール・クルーグマンの発言に以下のような部分がありました。

...all of that we’re seeing, all of the Sturm und Drang, and all of that is actually just Kabuki; that in the end, the Democrats will come together. What we’re seeing is jostling for the shape of the final outcome.
(前略)我々が目撃している、全ての「疾風怒濤」(=騒動)は、本質的にはカブキに過ぎません。最終的には民主党議員は団結することでしょう。最終的な法案を形づくるための駆け引きを目撃しているに過ぎないのです。

 NHK BS-1 で翌日(日本時間)放送された際の、篠田顕子さんの通訳では、以下のような内容として伝えられました。

いま目の当たりにしている「疾風怒濤」とも言うべき大混乱は歌舞伎のケレンに過ぎないという可能性です。最後には民主党はみんな団結してくる。最終案の形をめぐって今、競り合いしているだけであると。

 んんん…、歌舞伎ファンとしては「ケレン」の部分にすごく引っかかります。ケレンというのは、主役が早変わりや宙乗りといった演技(演出)を取り入れておこなうことですから、派手さ、という意味で使いたかったのかもしれませんが違和感が残りますし、比喩として「Kabuki」と言っているのに「歌舞伎のケレン」と表現することで、歌舞伎の話のように聞こえるのもどうかと思います。

 英語の特徴にメタファーやフィギュラティヴ・ランゲージと呼ばれる比喩表現の多用が挙げられるかと思います。日本語でも、歌舞伎用語でも比喩的な表現はありますが、英語は更に上をいくレベルで使われていると自分は常々おもっています。

 篠田顕子さんも直訳では伝えきれないと考えられた結果、ケレンを付けてしまったものと思うのですが、やはりケレンでは伝わらないので、実際、どういう意味で使われているのかと思い、いい機会なのでインターネットで調べてみました。

 はじめは歌舞伎の歴史物や歌舞伎十八番の狂言のような様式的かつ式典的な要素が全面的に出ている「大芝居」的な意味だろうかと思っていたら、日本語で言うところの「パフォーマンス」や“小泉劇場”の「劇場」に当たる意味で Kabuki が使われているようです。

 更に調べると英語の Kabuki には、「中身(意味)の無いパフォーマンス」という意味で使われることも分かりました。(出典:"Semantic Compositions" http://semanticcompositions.typepad.com/index/2004/06/languagehatcom.html)

 "Semantic Compositions" の 記事にもありますが、2004年の段階で、political kabuki (政治的パフォーマンス)という表現は既に多くのメディアで使われていたことが分かります。ということは、歌舞伎芝居を意味する本来の Kabuki とは異なる、単なるパフォーマンスや意味の無い芝居がかった弁論という意味での比喩表現としての kabuki が使用されていることを意味します。

 "Far Outliers" というブログには、political Kabuki という表現がアメリカで使われる前に、日系移民が多いハワイにおいて political shibai という表現が使われていた、という歴史をふまえた、おもしろい記事が掲載されています。(http://faroutliers.blogspot.com/2004/06/political-shibai-or-kabuki.html)

 また、"One Party State" というブログには、Political Kabuki の意味が載っています。(http://one-party-state.blogspot.com/2006/03/political-kabuki-definition.html)それを読むと、分かりにくい八百長のような、といった感じで、あまりいい意味には取れないのが残念ですが、アメリカでは Kabuki、日本ではパフォーマンス。それぞれ外来語で政治的な芝居的要素を揶揄系比喩表現として使っているようです。

(よ)

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2009年07月29日 20:37に投稿されたエントリーのページです。

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