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【訃報】市川升寿さん逝去

 歌舞伎俳優(名題)の市川升寿さんが昨日、亡くなられました。十一代目團十郎から当代の海老蔵まで三代に渡って成田屋を支えられられた名脇役でした。さみしい限りです。

 ファンであったためか、杉村春子を思わせる雰囲気もありましたが、舞台に出ているだけで江戸前が香ってくるようなきりりとした女形さんでした。お名前を知らない方でも、当代の團十郎や海老蔵の舞台を見ていれば後見に出られていた升寿さんの姿は必ずご覧になっていたはずですし、『三人吉三』で“三人夜鷹”の喧嘩で一番性格がキツそうな夜鷹を演じていた升寿さんを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

 以前、(よ)の歌舞伎サイトだった時代、成田屋が歌舞伎座で『上意打ち』を義太夫芝居に書き直して公演された際に書いたレビューをプリントアウトでお読みになられて喜ばれた、という話を人づてに聞いたことがあります。国立劇場の合同公演を客席からご覧になっていたようで、ロビーで不躾ながらご挨拶させていただいたこともあります。近くで拝見すると本当に小柄な方でした。独特の佇まいと大きな目で、すぐに升寿さんとわかりましたが、本当に控え目を絵に描いたような雰囲気でした。

 升寿さんを「古風な女方」と形容される方もいらっしゃいますが、私は少し違うのでは、と思います。確かに決して出しゃばらず、後見や黒子のときは團十郎の影よりも薄く付き添い尽くす姿は古風な以上に古風なお弟子さんの姿であり、決して立役より目立ってはいけない女形でしたから、そういう意味では古風だったとは思います。

 しかし、新派に参加されたときの升寿さんを見れば分かることですが、脇役のポジションというものを人よりも深く理解して自分を律しているような方でありながら、役の性格や「芯」というものをシン(主役)の俳優よりも深くとらえて見物に明確に提示できるという並外れた能力の持ち主でした。そういう意味でも升寿さんは私のような見物には、舞台で拝見できることが何よりのごちそうでしたし、いくら配役の関係があるとはいえ、出演者として番付にのっているのに役がない月など、本当にガッカリしたことも一度や二度ではありませんし、ちょっと体調を崩されたあと復帰されたかな、と思うと四谷さまの講中で背中しか見えないような役でやりきれない思いをしたこともあります。今の海老蔵が新之助だった時代も、後見で出演することが多く、升寿さんくらいいい役者がなんで後見ばっかり、とジリジリしたこともありますが、噂によると、ぼっちゃんのお世話もお好きだったようです。

 本当に目立たないし、目立とうとしない方だったと思いますが、私の中では、昭和の名優と並べても恥ずかしくないくらい、役者としての技量が高く、すばらしい俳優さんでした。ただ、劇評的には、新派へ出られたときの評価が高かったのに比べ、歌舞伎では成田屋の弟子であることを一途に貫いていた方だという印象が強く残りました。おそらく、それがご希望でもあったとは思いますが、升寿さんのように、技量のある名題さんが、決して世間一般には広く名前を知られることないまま活躍され、主演の俳優さんを支え、影となり尽くして順番で天国へ行かれるのが歌舞伎の世界の常であることは分かっているつもりですが、もうちょっとだけ長生きしたいただきたかったです。昨年4月、こんぴら歌舞伎では、あんなにお元気だったのに。

 ご冥福をお祈りいたします。

(よ)

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2009年04月25日 19:29に投稿されたエントリーのページです。

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