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市川團十郎(十二代目)・著「團十郎の歌舞伎案内」

 PHP新書から4月に発売された直後に買ったのですが、半年も積読(つんどく)状態にしてあったので読みました。青山学院大学での特別講義を本としてまとめたものです。歌舞伎全体の話から江戸歌舞伎、そして初代から自身十二代目に至る各團十郎について網羅された内容になっています。もちろん、歌舞伎の一般的なことも丁寧に解説していますので、初心者でもわかりやすい入門書としての役割も兼ねています。

 團十郎自身が、役者として宗家として歌舞伎と向き合って、不思議に思い、発見したことがらが詰まっている内容となっているため、新書でありながら、かなり充実しています。以前、浮世絵の番組で團十郎が江戸時代の江戸紫がどんな色か見たくて再現させたことがあるようなことをインタビューで語っていますが、この本にも『暫』の柿色の話あり、歌舞伎の化粧の紅はメキシコの虫など、團十郎の好奇心の高さが垣間みられます。團十郎は絵の上手な人でもありますので(昔、ビールかなんかのCMで海老の絵を描いてました)感度の高い観察ができる、というのもあるのでしょうが。

 写真も豊富に用いられているのですが、一番の驚きは、古い写真の團十郎(堀越夏雄)が美少年であること。目もくりくりっとしていて、今の海老蔵が神経質そうな顔でお父さんと『外郎売』をやった頃とは比較にならないほどいい顔しています。なのに青年になってお父さんと一緒に写っている女形のこしらえした團十郎が段之さんに似ているのはもっと驚き(?)。

 でも、本当に一番ショッキングだったのは、「おしまいに」と題されたおしまいのエッセーで宙乗りや本水といったケレン味あふれる演出や演技に対する疑問を呈していること。猿之助とも共演し、最近は息子の海老蔵が猿之助演出で『四の切』まで出しているのに、それは歌舞伎本来の「芸」ではないと主張で、確かにごもっとも。ただ、そういった主張をするのであれば、雪の上を歩く芝居さえろくにできない人が多い現在の大歌舞伎で、是非とも厳しいダメ出しをしていただきたいもの。山科の新雪の上をすいすい歩いてしまう『九段目』が雪国出身の人間には宙乗り以上のケレンであり、興ざめなのです。

 お知り合いに若くて歌舞伎を観はじめた人などがいる方は、この本をプレゼントするのもいいでしょう。一般的な歌舞伎入門書とは異なり、江戸歌舞伎宗家の團十郎が一人称で語る内容が親しみやすく、新書である手軽さもステキです。自画自賛的な芸談や海老蔵を含むファミリー礼賛的な要素は、ほとんどありません。

(よ)

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2008年12月14日 19:12に投稿されたエントリーのページです。

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