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レビュー「吉例顔見世大歌舞伎」夜の部

 今月は特に観劇予定を立てていなかったのですが、衝動的に何か観たい(何でもいい)という気持ちになり、歌舞伎座の夜の部へ出かけました。初日が1日で、翌2日に観劇したので台詞の入ってない役者もいました。演目も配役も味わいも微妙でした。

宮島のだんまり
 20分ちょっとの演目ですが、大薩摩もあるので正味はかなり短い演目のために顔してこしらえして舞台に出てくるだけアホらし、と皆さん思わないのかなぁ、と余計なこと考えてしまうくらいつまらない舞台です。そんなもんかもしれません。最後、花道の引っ込みですが、NHKの歌舞伎番組で何度も放送された芝翫のそれに比べると、福助のは妖艶さが足りないというか、男女のいびつなバランスを歌舞伎らしく表現しきれていません。

山科閑居
 出演俳優がバラバラでした。自分のしどころばかり事務的にこなしているような。悪い舞台とは言いませんが、それぞれの役がどういう腹で、人間関係および仇討ちにどう関係しているのかが、こんな舞台では分かりにくい。分かりやすくする必要はないだろうが、これでは源氏の話を忘れて「義経千本桜」をやってるようなもの。
 白い雪布の敷かれた花道を戸無瀬(芝翫)が傘を差して出てきますが、傘の上の雪を模した綿があまりにも薄すぎて2年くらい埃の多い所にでも置いてあったものを取り出してきたような不潔感があり、いただけませんでした。もっとたっぷり雪を乗せて、思い詰めてここまでやって来た、というような雰囲気を出せないのでしょうか。雪道で山道(山科ですよ!)なのに簡単そうに歩いてくるのも雰囲気なし。
 芝翫の戸無瀬は策略が無さすぎます。まるで運命に流されてるだけの無実の巻き込まれ被害者みたいな感じがしますが、武士の妻で自害まで覚悟して来た人とは思えなかった。
 菊之助の小浪ですが、相変わらず作った女形の声が耳障り。最初の返事する声は裏声がききすぎて、ミッキー・マウスのようでした。こちらも武家の娘であることの自覚が足りなく、時々、芝翫ともども世話物から抜け出してきたような居場所を間違っている母娘のようでした。眉毛を太く描いてあってビックリ。
 染五郎ですが、可もなく不可もなく。寺島しのぶの弟とどんな気持ちで共演しているのか。
 この幕の戦犯を一人挙げるとすれば幸四郎でしょう。重厚にしようとしているのか分かりませんが、やればやる程に浅はかさの深みにはまっていくのです。最後に瀕死状態になる役ですが、瀕死になればなるほど、バンテリン塗ったら治りそうなオーラ。若作りや身奇麗が行き過ぎている幸四郎が、半分白髪の混じった頭の役で自ら死を選ぶ、という設定が嘘くさい。今月だったら梅玉か左團次か仁左衛門で見たかった。
 吉右衛門の大星由良之助は事務的だった。目の前でおっさん(加古川本蔵)が死にかけているのに、吉良邸討ち入りマップGETした瞬間、討ち入り仮面に変身して情感も無く飛び出すとは、なんとも色気も愛情もない。
 その妻お石を演じた魁春だけはすごくよかった。さすが歌右衛門の息子。きちんと武士の妻である、その姿、佇まい、話し方など、歌舞伎の役を演じることがどういうことであるのかを主張することなく明確に提示していたのは魁春だけでした。

土蜘
 富十郎親子が、おいしいところをかっさらいました。鷹之助くん大活躍。富十郎も出演者中で一番声がでかい!(いつものことですが)主役の菊五郎のほか、仁左衛門、梅玉、菊之助、芝雀、左團次らも出るおいしい幕ですが、個人的に一番うれしかったのが、菊十郎さんの後見が見られたこと。名後見ここにあり、でした。後半は音吉さんと一緒の後見でしたが、こういう演目は後見の糸さばき(?)がきちんとしていないとかなり見苦しいのです。

三人吉三巴白波 大川端庚申塚の場
 意外や意外、孝太郎がお嬢吉三。見巧者の大向こうの人にとってもそうだったんでしょう。夜鷹のおとせ(宗之助)が花道に出てきて、次に出て来たのが松嶋屋なのに「音羽屋!」と叫んですぐさま「松嶋屋!」と訂正したくらいですから。(菊五郎の得意な役だからしょうがないですが。)
 その孝太郎ですが、ちょっと古風な可憐さが前面に出ているのでおもしろいお嬢吉三だな、と思いました。好きです。ただ、まだ2日目とはいえ、女の声と男の声との行き来ができてなかったのが残念。玉三郎ならば期待したくてもできないところでしたが、せっかく声もあるんだから、女のフリしている時の声と男の声の使い分けはもっと工夫して欲しい。
 お坊吉三の染五郎は台詞がよくない。わかりずらい。耳に入ってこない。そしてなにより、悪党らしさがない。ダメ。
 またしても上出来だったのが和尚吉三の松緑。これが初役だったのかは分かりませんが、もう何度も演じているような安定感と台詞のキレの良さは本当にどこからくるのでしょうか。いい意味で不思議でなりません。三人の中ではリーダー格となるにふさわしい台詞まわし。役にすーっと入っているようで他の2人のようなとまどいが一切感じられないのもいい。
 染五郎さえ外してくれるなら、このまま通しで観たい、と思わせる幕でした。(よ)

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2007年11月08日 20:23に投稿されたエントリーのページです。

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