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通し狂言「義経千本桜」レビューその3 夜の部

四幕目 木の実/小金吾討死
最初、扇雀が小金吾と聞いて、絶対に期待できないと考えていたのですが、いい意味で間違ってました。普段は意地悪女の役なんかがピタっとはまっていて、臭い芝居をする某人気俳優なんかの芝居には無くてはならない存在かと思っていましたが、こんな前髪の役までソツなくこなしてしまうとは見事。でも、殺陣などは劇団芝居で本来すべきようなものですから、そういう面ではいいとは言えません。でも、汗かきながら見事にこなしていました。体力的には問題ないようです。若葉の内侍を演じた東蔵、もうちょっと若くて細い人をと思わないでもありませんが、品格において、そして小せんを演じた秀太郎とのバランスを考えると適切であったと言えるでしょう。秀太郎の関西弁、なんともいいです。自分の子が若君とがあまりにも違うので「えらいちがいやな」と呟くようなあたり、関西弁でこそ、でしょう。仁左衛門の権太も悪人ぶりがものすごくいい。加役でクソばばあを演じるのが得意なのは周知の事実ですが、権太でここまでやるのか、と思うくらい良かった。人間の二面性をさり気なく伏線として提示しながらも、夫として、父親としての愛情を描くことに成功している当代の仁左衛門も本当に素晴らしい。最後に弥左衛門(左團次)が登場しますが、運命のいたずらに翻弄されるがごとく、非常なる妙案を思い浮かべる前と後とのコントラストが絶妙です。

五幕目 すし屋
今月の通し狂言の白眉が仁左衛門の関西系「すし屋」。本来、大和の国の話であり、食文化を考えると上方風にやらない方がおかしいのですが「すし屋」を観て号泣しそうになったのは今回が初めてです。ファンとしては片岡三兄弟、孝太郎、そして関西歌舞伎の竹三郎さんまでが揃ってこの場を演じることこそが何よりのごちそうだったのですが、仁左衛門の権太は見事すぎます。ボキャ貧で表現が見つからないくらい素晴らしかった。たいまつの煙で目が染みるとかそういう表面的なことでない、懐の深い部分での愛情がすばらしい。最後、弥左衛門に刺され、肉親との正常な関係を築くことが出来なかった義経に代表される悲劇の登場人物(狐)をある意味、代表しているのですが、単なる悪人ではなかった権太の家族への思いやりが最後に、本当に泣かせてくれます。「熊谷陣屋」や長谷川伸・作の「檻」こそが泣かせる演目かと思っていましたが、仁左衛門が権太を演じる「すし屋」もすごい。この食いしん坊が「すし屋」が終わった後の30分休憩で、買ってある弁当を食べようか迷ったくらいに感動しました。左團次もお里の孝太郎(ちょっと化粧がケバいかな)もよかった。維盛を演じた時蔵も、耐えることと抑制と品格を求められるストレスが溜まりそうな役ですが、やはり品の良さが物を言います。今回の通し狂言のレベルの高さを代表する幕です。「木の実」(椎の木)から出し、権太の妻と子の説明があったからこそ効果的な「すし屋」。まあ、文楽では「椎の木」から「すし屋」」までは必ず休憩時間なく一気に演じているから、ある意味、常識ではありますが、歌舞伎の場合、どうしても上演時間の問題があるのが現実です。

大詰 川連法眼館・奥庭
川連法眼の妻明日香(田之助)が奥から登場し、川連法眼(彦三郎)が花道から登場し、法眼が妻の忠義を確認する段まで付いてます。勘三郎など、題名を無視したカットをして腰元の客静めトークでごまかされることも多いんですけど。菊五郎は、本物の佐藤忠信として登場している時の武士の腹構えというか気迫は見事。その割に狐になってからのうれし顔はちょっと色物。マジメになりすぎないという抑制を効かせるというバランス感覚でもあるのでしょうが。本物の忠信は目張に紅は入っていませんが、狐忠信になった瞬間、紅が入ってます。しかも、一旦消えた後に再登場する際、毛縫いはそのままのに汗で取れた首の白粉をきちんと塗り足しているあたり、菊五郎はすごい。相変わらずくねくね、猿之助と共演しなくなって早数年(十数年?)とはいえ福助もこの「四の切」の静御前は何度もしているのですが、主君義経への愛情と忠信への心を両立させるのは難しいのでしょうね、よっぽど。サグラダ・ファミリアみたいな芸。贅沢を言ってはいけませんが「四の切」は通しで出ている役者さん、ちょっとお疲れ気味ですね。「奥庭」は白狐との殺陣がちょっとあるだけで、横川禅司覚範(幸四郎)と勢揃いするだけですが、通し上演ならではの豪華さ。(よ)

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2007年03月11日 20:59に投稿されたエントリーのページです。

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