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北野幸伯・著『ブーチン最後の聖戦』

 個人的なことになりますが、かつて放送通訳にあこがれていた時期がありました。しかし、O.J.シンプソン裁判や同時多発テロ後のアメリカにおけるメディア報道を見るにつけ、急に熱が冷めてしまいました。その後もvideo Podcast で見ている米・NBCニュースの海外特派員が中年男性でありながらいつもヘアスプレーでがっしりかためたような完璧ヘアーでイスラム圏や中東の戦闘地帯などからも確実にハイビジョン中継でレポートする姿を見続けるにつけ、違和感を感じています。レポートの映像に映し出される被写体は混乱にあるイスラム教国家や国民でも、レポートする側は毎晩、ホテルで宿泊して、きちんと飲み食いしているのが伝わってきます。まるで、西側メディアのためのVIPツアーが存在するかのように。

 そんな自分に神様がそっと差し伸べてくれたかのように読むことになったのが北野幸伯・著『プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』です。

 ソフトカバー単行本ですが、新書よりも分りやすく、ロシアのプーチン大統領を切り口に、ユーモアたっぷりに世界情勢を豊富な事例を用いて説明してくれます。著者の頭脳明晰さに脱帽。海外情勢に詳しいジャーナリストで、情報力や洞察力が非常に高い割には伝え下手のT嶋さんに不足しているものを全て兼ね備えているのでしょう。この著者やこのような本に早く出会っていたら、放送通訳にあこがれていた時代に勉強しながら効率よくいろいろ理解できただろうに、とちょっとだけ悔やまれます。

 プーチンが押し進める米ドルの基軸通貨はずし、中国へ歩み寄り反米同盟の強化などなど、ユーロ圏の財政危機まで、全てがつながる内容に納得の1冊です。

 ソーシャルメディアが後押ししたとされる昨年の「アラブの春」をアメリカのメディア報道で見ていて感じたことが、著者によりがさりげなく書かれていて驚きました。

 国連安保理を無視してイラクを攻めたアメリカ。そのため、世界における求心力は著しく低下しました。
 アメリカは第一に国連安保理を無視した。
 第二に、開戦理由が全部ウソだった。
 これはつまり、「アメリカはいつでもどんな国でも、理由をでっち上げて攻撃ですることができる」ことを示しています。(p.296)

 これだけ読むと軍事攻撃のことだけを書いているようにも取れますが、ソーシャルメディアを含む情報操作などによる軍事攻撃の下ごしらえという意味で、ものすごく恐ろしいと思いました。仮にA国内ではそのようになっていなくとも、A国以外のメディアがA国政府は民主主義ではない独裁国家で…と報道し、アメリカが「民主主義のため」と大義名分を掲げたら、それでOKなのです。日本はそういった扱いを受けることはない、と誰が断言できるでしょうか?

 昨年の東日本大震災直後も放射性物質の飛散がありアメリカやフランスなど外国政府が独自に東京から離れるように等、自国民へ勧告し、一部ヨーロッパ諸国など外交官が日本への赴任を希望しなくなり…といった後日談もありました。一時的にですが、日本政府の対応のまずさから、外国政府発表ならびに外国メディアの報道が限りなく「真実」に近いのではないかと、日本人にも思えた瞬間が昨年の大震災・津波被害の後にはありました。

 幸い、福島県の一部がゴーストタウンだという報道はされても、アメリカの西海外で取れるマグロで福島から放出されたと特定される放射性物質濃度が高くなっても食物として摂取するぶんには問題ないと最近も報道されたりで、アメリカのメディアは親日的でさえある部分がある一方で、やはり民主主義をつぶそうとするアラブの独裁者は裁かれ死刑にされて当然、という判で押したような論調は相変わらずです。

 米ドルが基軸通貨から外れていったとしても英語が国際的に通じる言語としての役割を終えるとは当面、考えられませんが、これから世界経済が向かうであろう方向性を示しているという意味でも、通訳者ならびに通訳学校で勉強されている方々には北野幸伯・著『プーチン 最後の聖戦』をお勧めします。

 放送通訳なんか忘れた過去の希望、と思いつつも、競馬新聞の調教師コメントではないが、外国メディアの通訳を勤めることによって、きちんと訳しながらもメタメッセージを分るように発信するのもいいかな、と思ったり。(笑)そこまで使命感に身を捧げられるのであれば僧侶にでもなったほうがいいのですが…。

 いずれにしても、英語が分るだけではなく、海外メディア・ウォッチャー率も高い通訳者の洞察を持ち寄ったら、通訳者だけの『朝まで生テレビ!』が企画できると思いつつ、通訳者が媒体(メディア)になってはいけないことですので、妄想USOテレビということで、お願いいたします。

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コメント (2)

モチヅキ:

いつもすばらしいブログありがとうございます。
上の記事を思い出し、最近「プーチン最後の聖戦」を購入しました。
ブログに書かれているような名著で目からウロコが落ちました。
ありがとうございます。
これからもいろいろ教えてください。

Yoshi:

モチヅキさま、

コメントを頂戴し、恐縮です。

『プーチン最後の聖戦』のような本が十数年前にあったら、通訳学校の先生がどうしてガスプロム問題をあそこまで取り上げていたのか、すごく理解できだろうに…と思います。

でも本当に「目からウロコ」本ですよね。かつて『現代用語の基礎知識』などを買ってトピックごとに調べていたことがアホらしく思えるくらいです。

関係ありませんが、書きたくて書けなかった記事があって更新が止まっていましたが、モチヅキさまの励ましを得て書く決意がつきました。数日中にアップいたします。異論反論、歓迎ですので、よろしければまたコメントをお願いいたします。

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2012年06月09日 11:41に投稿されたエントリーのページです。

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