« 女性の「自己愛」を理解しない男性は地雷を踏む | メイン | 通訳者は「高給取り」であり続けられるか »

「おくやみ」を適切な英語で表現できますか?

 どんな通訳者にも盲点のような分野はあるかと思います。苦手な分野ではなく、想定外のような分野という意味ですが、「人の死を伝える」英語を知らないバイリンガル人材が外資系企業でも多く働いているようです。

 我々は皆、死に向かって生きています。だからといって職場で同僚や元同僚の突然死や自殺などを想定して働こうと、と考えている社内通訳者はほとんどいないと思われますが、社内コミュニケーションを司る立場で仕事をするのであれば、出産育児休暇中の女性社員の出産といったおめでたい話題から、同僚の突然すぎる死まで、通訳者である前に「おくやみ」といった悲しい出来事に際しても適切に表現できるバイリンガルな社会人である必要があると思います。

 日本では亡くなられた方、特に亡くなられて間もない方にはいたわりや悼む気持ちで接するというのが常識的なマナーかと思います。場合によっては、社員の死から49日間は全社的な宴席を設けたりしない等、配慮があったりするものです。だからこそ「死」ではなく「永眠」や「逝去」と表現するのは日本語では当然のことなのですが、英訳だと passing away ではなくdeathといった表現を使って平気な人がいます。(メタル系バイリンガル?)通訳者で、旦那さんはアメリカ人で、アメリカでの生活経験も複数年に渡るような人がそのようなデリカシー無さを露呈しても、それを恥じ入ることも無い本人に、おかしいでしょ、と指導する外国人や上司もいない外資系企業には、そもそも「尊厳死」を期待してはいけないのかもしれません。

 悲しいことですが、外資にはそいう所がありますし、日系企業などでも自死を選んだ仲間については語らないという風潮はあるかと思います。職場なんて同じ場所で仕事をしていても、所詮は他人の寄せ集め。尊厳など最初から無い、が正解なのかもしれません。(立入り禁止の屋上へ通じる階段で…、といった話を当時の関係者ではないとはいえ、興味本位で話す人材に、日本人も外国人もありませんが…。霊や念を呼び寄せない体質の方は気楽です。)

 最近、國貞文隆・著『やはり、肉好きな男は出世する ニッポンの社長生態学』(朝日新書)を読んでいたところ「外資系社長は人格を問われない」という章があり、その見事な外資系企業分析に感心しましたが、そのような社長の通訳者であれば「死」はテキトーに扱っても社内では咎められることもない事案でしかないこともあるでしょう。昨年の震災と津波被害による福島の原子力発電所事故のように、自分に忍び寄る死の影には敏感で、即刻、家族とと共に帰国したり大阪や福岡に臨時本社機能を設けてみたり、外資系企業のガイジン社長や役員の「人格」やローカル雇用の人材(日本人社員)に対する思いやりレベルの低さ, if any, が暴露したとはいえ、同僚の死には、それなりのわきまえをと思うのも日本人としての人情ではないでしょうか。

 個人的なことになりますが、えひめ丸事件の当日、ホノルルに滞在していました。事故後、帰国してから愛媛県立宇和島水産高等学校などを訪れて加害者側のアメリカ政府(軍)関係者)が弔問を兼ねた謝罪と思われる形でえひめ丸の地元を訪れたニュース映像に写っていた女性通訳者の姿を覚えています。

 私も若かったので、彼女のような立場の通訳者でなくてよかった、と当時は思いましたが、時の流れと共に、場合によっては自分もああいう立場になるかもしれない、自分があのような立場で通訳をすることになっても対応できるのがあるべき姿であろう、という考えに変化してきました。

 恐らくもう少し社会や医療が進化した何年か後には死にかんするリテラシーのようものが求められるようにもなるでしょう。日本の保険証でも裏面に臓器などの移植希望があれば記入できるようになって数年が経過しましたが、脳死を人としての死と見なすか、心臓の鼓動が止まった瞬間に死亡したと見なすのか、微妙な問題や配慮を求められることでしょう。これから移植技術などの進歩によって治療や延命の限界が必ずしも明確な死亡日時を定めるものではなくなった場合、お知らせるするタイミングや内容にも配慮が求められることでしょう。また、遺族の意向によっては臓器などを提供したか等の事実を開示する・しないといったケースも出てくると思われます。

 また、情報を受け取る側も「週末に亡くなったって、土曜なんですか日曜なんですか?」といった愚問を口に出さない等のデリカシーが求められることになるでしょう。

 もし将来、社内通訳者・翻訳者のポジションに応募して、テストに悲しいお知らせ系の内容が出て来たら、担当は私かもしれません…。あしからず。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://bobbi.jp/adminsys-blog/mt-tb.cgi/196

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2012年05月27日 13:49に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「女性の「自己愛」を理解しない男性は地雷を踏む」です。

次の投稿は「通訳者は「高給取り」であり続けられるか」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。