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鳩山由紀夫と慰めとポケット・ティッシュ

 4月15日くらいになって、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト Al Kamen 氏が、ワシントンDCで開催された核安全サミットにおけるオバマ大統領の外交にかんするコラムを発表して、その内容が鳩山首相をこき下ろす内容であったと日本でも報道されました。

 そのニュースを伝えた読売新聞(オンライン版:http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100415-OYT1T00362.htm)では「夕食会の席での非公式な会談が慰めとして与えられただけだった」と“慰め”という表現が唐突に出てきたので原文を調べてみたところ、"consolation prize" でした。

 残念賞か敢闘賞(参加賞)程度の意味しか持たない "consolation prize" を「慰め」という表現で訳してはなりません。確かに、"consolation" だけであれば「慰め」だったり、固有名詞としてはフランツ・リストのピアノ曲だったりしますが、"consolation prize" は福引きでハズレの際に渡されるポケット・ティッシュ程度の意味しかありません。ですが、知らないため辞書で調べると consolation の意味が引っかかってしまい、訳者によっては「慰め」系の意味やニュアンスを求めてしまうのでしょうが、"consolation prize" という表現になった瞬間「慰め」という意味は無視するに限ります。

 現に鳩山首相をかろうじて完全シカトしなかった、という意味しか持たない夕食会冒頭での10分間だけの会談ですから、「残念賞」か「参加賞」という定訳で十分でしょう。

 なんですが、通訳者でも翻訳者でも、知らない表現を辞書などで調べてそこに書いている意味に取り憑かれる人がいます。辞書を引く、のではなく、辞書に引きずられる人たち。

 昔の職場にいた某女性通訳者は、"sconce" の辞書上の意味が「(壁に取り付けられた)燭台」であることに取り憑かれてしまい、実際には電器の照明器具の意味で使われていることに【矛盾】を感じてしまい、管理職に質問して時間を取るという暴挙に出ました。日本語でもえんぴつやペンしか入れないけど「筆入れ」というのと同じだろうと思いながらやり取りを聞いてしまいましたが、ホント不毛。辞書を編纂しているわけでもなければ、建築・電気工事の解説書を書いているわけでもないのに、なんでそんなにこだわるのか、不思議でなりませんでした。しかも、実際の会議では日本人担当者(その道の専門家たち)が「スコンス」と言っているのですから、デザイン会議でもない建設計画の会議中に「燭台」などと訳す必要はゼロで、余計に不毛な質問に思えてなりませんでした。

 それとは別に10年以上前になりますが、私が「歩行者天国」を pedestrian mall と訳したところ、パートナー通訳だった女性が「そう言うんですか!? 確かに皆さん(アメリカ人出席者)わかってらっしゃいましたが」と驚きと不信感と疑念が入り交じったような質問をされたことがあります。当時、CNNをよく見てましたし、たまたまですがその会議の前にワシントンDCで一部の道路が pedestrian mall として解放される、といったニュースを見ていたので使っただけなのですが、年下や自分よりキャリアが短い(=見下している)通訳者が知らない表現や辞書にない表現を使うと「????????????」という疑念がまず立ってしまって、収めるのに時間がかかる通訳者がいることを学ばせていただきました。

 最近『翻訳辞典 2011年版』を読んでいたら、ビジネス翻訳のところで(たしか)interesting を お客様が欲しがる といった感じの表現に訳しているのを発見して、久しぶりにうなってしまいました。確かに、コンテクストや用途に適した訳というのが本来のぞましいことなのですが、通訳・翻訳のあらゆる現場や教鞭の場で、defensive であることを求められることが多い状況で、マニュアル的な対応から外れることを恐れるな、というのも、酷な話なのかもしれません。特に下請化が著しい翻訳の世界では、defensive にならざるを得ないことも多いでしょうし、映像や報道といった媒体での誤訳があると、このようなブログや大手掲示板などで批判されることもあり、場合によってはそれを発注者側がマメにチェックしているので、請負業者が戦々恐々としている業界もあるといいます。

 ただ、資料一式をお渡ししているのにもかかわらず、文字だけ翻訳に入り込んでしまって、オス/メスの区別が明確でも主語を he/she などと英訳してくる翻訳者や翻訳会社は、defensive 以前の問題があると思いますが。

 ちなみに上記女性通訳者、defensive な通訳者を排出することで有名な某スクールに通学し、講師にまでなってしまいました。あのくらいのこだわりと粘着性がないと、エリート通訳者にはなれないようです。

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2010年04月21日 21:29に投稿されたエントリーのページです。

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