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コールドリーディング話術は通訳に使えるか

 コールドリーディングという概念は、何度もテレビでも取り上げられているのでご存知の方も多いと思います。たいていは占い師の話術や営業職などでの応用などといった分野で聞かれますが、今回は失敗覚悟で通訳に使えるかを考えてみたいと思います。

 コールドリーディングを簡単に説明すると、AがBと「なにげなく」話しながらBにはわからないようにBから情報を聞き出してAはその情報を聞き出してBにその情報を話すことでBを信用させる話術のことです。専門家ではないので上手な説明ではありませんが、コールドリーディングはプライベートな会話から能力のないニセ占い師から宗教の勧誘にも使われていると言われます。コールドリーディング自体が違法なことではなく、事前情報無しに相手や状況(証拠)などから情報を得るという意味なのですが、占い師などが使うと言われた方が「当たっている」と感じたり、よろしくない宗教勧誘で言われた人が不当に「霊能力」などを感じるように誘導して入信させたり高額商品などを買わせた場合、違法行為とみなされる可能がでてきます。

 他人に何も情報開示しないコールドリーディングもあります。例えば、今日のパートナー通訳者の女性、真夏なのにびっちりブランドスーツで髪の毛もしっかりセットしているからプロフェッショナル志向は強いけど、メモ用紙は裏紙なんか平気で使っているから意外とコンプライアンスとかには無頓着でケチなんだろうな、などと観察しながら自分の心の中にだけしまっておけば、それで終わります。

 そういった観察を基に「あなたはかなり真面目に通訳に取り組む姿勢のある方だし、こうやって派遣されてくるくらいですから、それなりのレベルに達している方なんですね。でも、社会人経験やビジネスの現場での経験はプロとしては多いとは言えないから、まだまだ勉強したいという意欲もありますよね。」などと言って、言われた側が仮に「そうなんです。」と同調したら占い師的な意味においてコールドリーディングが成功したと言えるでしょう。そこで「私もそうでした。意欲はあっても経験が十分でないと、不安を感じたり、大変ですよね。ほんと、通訳って職業は…。」などと加えたら、場合によっては派閥に引き入れたり、メジャーなエージェントとケンカ別れして創設した自分の個人通訳事務所へ所属させたり、ということも可能になるかもしれません。なにしろ【プロ】通訳者として一人前になるには、何年も通訳学校に通って何年も現場で苦労して、と一種、宗教的な「苦労/超人的勉強が必要」信仰も漂っている孤独な世界ですから、「同じプロの目線で」理解してくれたり、言葉をかけてくれる先輩通訳者/著名な通訳者には弱い人もなかにはいるようです。また、自分が「苦労」した人は、教え子でも同僚でも、同じように「苦労」をしていない、と評価したとたん、鬼のような厳しい態度に出る、という人もいるようです。

 話を戻します。

 ここからは、石井裕之・著『一瞬で信じこませる話術コールドリーディング』の内容も参考にしながら、コールドリーディングの通訳応用について考えたいと思います。

 通訳の現場で参加者のほうから「通訳さん、今さぁ困ってるんだよね。ガイジンさんが日本の状況をつかみきれてなくて」などと言ってくれたり、アジェンダに会議開催の(真の)「目的」が書いてあれば別ですが、そういう会議ばかりではありません。そういう時にコールドリーディングを使うのもいいでしょう。参加者のピリピリ度、ニコニコ度を参考にするのもいいでしょうし、遅刻者の「ヤバ!」って顔のシリアス度でもいいでしょう。でも、場慣れした通訳者であれば、双方の発言を少し聞いたりするだけで、何が通じ合ってないのか、といったコミュニケーション上の問題が「読め」たりしますが、これも一種のコールドリーディングと呼べます。あるいは、外国人の発言を適切に通訳しているのに通訳を聴いている日本人がサッパリ分からないような顔をしている場合、そのような表情も問題を把握(コールドリーディング)する素材になります。

 占いであれば、常に占ってもらいたい人(客)がいるものですが、だいたい占ってもらいたい人が知りたいことは、将来のことであったり、仕事や恋愛、金運といったことなどと相場が決まっていますからコールドリーディングをしやすい(=カモにしやすい)環境にあると言えますが、フリーの方で今日はA社、明日はB社のような仕事をされていると、なかなか社内の状況をつかみにくかったりしますが、(外部)通訳を入れてまで会議を開催する理由なんかも、実はそんなに種類(大分類的にという意味ですが)は多くなかったりします。社内会議の場合、細かい話になったりすることはありますが、フォーマルな会議でない分、正直に感情や言葉が出たりするものですから(特に男は)状況を把握する程度のコールドリーディングやしやすいともいえます。

 石井裕之氏も、占いが当たっていると感じさせるテクニックのひとつとして「ストックスピール」のを挙げています。情報を引き出す意味での「ストックスピール」は通訳者として使うことはできませんが、その概念だけは多少つかえるのではないかと思います。どんな会社のどんな案件でも、大きな種別に別けたらば、そんなに何種類もあるわけではないので、経営系の会議であればこういった表現や訳し方、というアプローチもアリだと思います。また、発言的にも、営業関係であれば日本語的には「どうして予算達成できなかったんですか?」といった直訳系にすると聴いた側の日本人が責められた(個人攻撃された)と思い、かまえてしまうこともありますので、「予算未達の理由をお願いします」といった感じの表現や口調を工夫することによって避けられる誤訳とは異なるレベルでの誤解を避けることも可能だと思います。例えば、"We must start doing it now." という英語の発言があったとして、直訳的に「我々は、今から取り組み始める必要があるのです。」と通訳しても誤訳にはなりませんが、部門ごとの目標設定などがしっかりしているような企業で社長がこういうことを言う場合、"we" が強調したいところだな、とコールドリーディングが可能であれば、「一緒に(会社として)これから取り組んでいきましょう。」といった訳にしたほうが、耳に入りやすし、直訳だと個々が新しい仕事をさせられるのかという負担を感じさせるのに対して、「一緒に〜しましょう」のほうが心理的な負担はやや軽く理解しやすく前向きな感じがすることもあると思うのです。コールドリーディング手法を使う目的は、それを用いた発言が、聴く側にとって「自分のことだ」と思えるようにすることでもあります。

 そのように「自分のことだ」と感じることを「ヒットする」と呼ぶそうですが、通訳の究極の目的というか存在意義は、話の内容が伝わってそれが自分のことや知りたいことなどに「ヒットすること」だと思います。同書には二段論法、三段論法のようなテクニックも書かれていますが、それは通訳業務とは関係が薄いと思われますので省きますが、「サトルネガティブ」なフレーズは使えると思います。「〜ではありませんよね?」「〜というのはあなたのことではないですよね?」「〜ということは今まではないですよね?」等々。(p.127)

 また、大勢の参加者が入っていたり利害関係相反する人たちが混在しているような会議などの場合、あやふやな表現とはちょっと異なる感じで、「〜でしょう」とか「〜と感じる方もいらっしゃると思いますが」と出来るだけヒットさせる可能性を高めて限定的な表現にしないよう配慮することもできるでしょう。(司会業も長年勤められたという綾小路きみまろの漫談みたいですが。)

 「古いものはお好きですか?」と質問されたら「別に」と答えられるかもしれませんが、「古いものにも興味があったりしませんか」と質問されたら、場合によっては「そういえば、最近けっこう着物とか京都とかが気になるかも」とか「友達と一度くらいは歌舞伎に、って話してたんですよ」とヒットする可能性が高くなります。日本語的には単に助詞の問題だったり、日本語でも英語でも表現の問題なのかもしれませんが、せっかく通訳するなら、やっぱり「ヒット」したほうがいいのでは、と私は思います。

 ニセ占い師がコールドリーディングを用いるのは、ヒットさせられる確率が高いからです。そして、ニセでもニセでなくても、占い師が熱狂的なファンや信奉者を生むのも「自分のこと」意識があるからです。人間の悩みや希望や欲なんて、そんな何千種類もあるわけではなく、ひとりひとりの意識は個人のものかもしれませんが、人間同士が交流をする際に期待したり求めたりするものには共通項が多いのです。ビジネスや国際会議だって目的や参加者の意識など、そんな特殊な事例がいくつもあるわけではありませんので、専門的な用語や概念はともかく、どういう目的で何を伝えたいのか、といった事柄をコールドリーディングするだけでも、ラクに通訳業務を行なえるケースも多いと思うのです。

 以前『オーラの泉』を見ていたら、江原啓之氏が霊視対象となった女性タレントだったか女優に「おばあさんがついていますよ」と言いました。具体的に、どんな感じのおばあさんであるか等、いっさい具体的な情報はありませんでした。前世までわかる人なのに、その女性とどういう関係であるのか、全く何も言いませんでした。しかし、その女性は自分から父方だったか母方だった忘れましたが、とにかく「おばあちゃん子」であったと自ら発言されて(=情報提供して)いましたが、これは江原啓之氏がコールドリーディング上の撒き餌とも呼べる「おばあちゃん」を出して、言われた女性が自分の祖母だと思い(=ヒットしたと思い)実は…、という会話をしたに過ぎません。でも、考えてみてください。「おばあさん」は grandmother(s) かもしれませんが、単に old lady/ladies のことかもしれません。ということは、祖母がいる人ならばそれだけでヒットする可能性がありますし、親しかった老女や恩人の老女などの可能性だってあります。中国語やタイ語など、母方の祖母と父方の祖母で表現が異なったりするような言語では成立するのか疑問なコールドリーディングだなぁ、と言語学的に考えてしまいました。(注:江原啓之氏がニセ占い師であると言明する意図はございません。ただ、コールドリーディングとみなされても仕方が無いようなやり取りが番組内であった事実を述べるものであります。)

 逆に言えば、それぞれの言語にある「おばあさん」的な表現を意識的に使える場では使ったり、用語集でそれをわかるようにマーキングしたりすれば、コールドリーディング的な手法を通訳で使える際には便利と感じることもあるでしょう。(あえて明言は避けます。あしからず。)

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2010年01月10日 05:05に投稿されたエントリーのページです。

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