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再指名されないフリー通訳者たち(下)

メカは・わからない乃

 エージェントのコーディネーターにも男女を問わず多いのがこのタイプ。ちょっとでも機械の話になると「わからない」と逃げるタイプ。

 同時通訳機器を含め、ヘッドフォン(イヤホン)の端子には基本的に標準とミニのふたつしかありません。「A」クラスの通訳者をお呼びすること困るのが機械音痴さんの多さ。というか、フリーの通訳者として活躍されているならば、仮に普段ウィスパリングが多い《ビジネス通訳者》でも仕事道具として、自分用のヘッドホンとアダプターくらい持っていて欲しいもの。

 どんな電気店でも標準とミニのアダプターは置いてあります。数百円の投資です。ステレオヘッドフォンで片方からだけ聞こえてしまうのがイヤならば、ステレオ→モノラル変換プラグも買えば両方の耳から聞くことができます。(こちらのプラグは大きめの電気店かオーディオ専門店をお勧めします。)両方のアダプターを買ったとしても千数百円。  この簡単な事実を理解できないコーディネーターや低額の投資をしない通訳者が多いため、担当する通訳者によっては繰り返し同じ質問をエージェント経由でしてきます。エージェントも優秀な人ならば、あの会社のあの会議室なら標準プラグ、とどっかにデータを作ってあるのでしょうが、通訳者から質問があるとそのまま投げかけてくるようなコーディネーターも多いのです。

 そういう指示をあえて出すのは、私もかつて退職された先輩女性通訳者から、会社の同時通訳ブース備え付けのヘッドフォンはバカでかくて重いから、という気遣いをいただいたからです。個人差はあありますが、女性の場合、首周りの加重負荷に敏感な方もいらっしゃるので、この案内をしています。

 こちらも一度言ったことが担当通訳者に伝わらないのが日常茶飯事ですから、質問がある度に「標準」です、とお答えするのみですが、「S」クラスの方をお呼びするとこういうやり取りは生じません。おかげで通訳業務とは無関係の同じオフィスの同僚まで諳んじてしまい、自分が不在にしてても代理で対応可能になってしまいました。


ゆきずりの・ジョージ

 体だけが欲しい。そんな夜の相手なら、名前なんかあってもなくても肉体がそこにあればいいのでしょうが、出席者や事実上の発言者が限定される会議で、ガンコに、というか、徹底的に名前を訳さないプロ通訳者も結構います。

 確かに、資料や出席者リストに無い名前を急に言われてもわかりませんし、ましてや外国人の不正確な発音を基に日本人の名前を想像して訳して間違ったら恥ずかしい、というのは社内通訳者でも同じです。

 でもですね、今日はこういう出席者です、とA4の紙にテーブルを意味する楕円を描いて役員の名前を書き添えて教えても、一切無視される方がほとんどです。性格か具合が悪いのかな、と不思議に思ったこともありますが、ほとんどの方が一生懸命ゆえに、即興の座席表なんか見てられない、という感じでした。

 半日(4時間未満)拘束の案件だったらまだ許せますが、終日や2日連続の案件で、ランチ休憩後も翌日も午後5時まで頑なに名前を訳さない通訳者は、適性を疑いたくなります。

 意味が分からなくても、とりあえず聞いたままアウトプットするのが通訳者、という話は何度も聞いたことがありますが、名前は省くことが通訳者としての適性、というのは聞いたことがありません。少なくとも同時通訳では。(資料を活用しながら通訳するのも適性のうちだと思うんですが…。)

 適性はともかく、こいつ最低だな、と思った某フリー通訳者の男性は、社長の名前のみ必ず訳し、その他の役員は名前が出ても絶対に訳さない人でした。会長をはじめ、役員とはほぼ全員、顔なじみと呼べるくらい何度も仕事しているのに。抑圧された顕示欲や権力欲が出たのでしょうか。


こうあつ・アドルフ

 これは男性の事例しか見たことがありませんが、社長の発言をとにかく高圧的にエラそうな日本語に訳す通訳者がいます。いるんです。

 自分は "you" と社長が発言した場合には、個人なら名前+役職名に訳したり、場合によっては「そちらの部署で」といった感じで工夫します。社内通訳者だからできることかもしれませんが、"you" の訳し方ひとつで、特に通訳を聞くことに慣れていない方の耳に響いたり響かなかったりすることがあるのを同時通訳ブースからいやというほど見てきたので、多くのプロ通訳者ほど聞き手が通訳慣れしているという前提で通訳はしないほうだと思います。

 しかし、プロ通訳者でも社内通訳者でも、男性だと抑圧された権力志向が出てしまうのか、社長の話だけはヒトラーによる演説の吹替収録の現場か?と思えるほど、ギザギザした日本語を大きな声で吐き出す男性通訳者を複数、目撃しています。英語出しの時は、かすかに震える声で "Thank you indeed."とか通訳している人が、同じ会議の中でこれほど豹変するか?ってくらいのケースもありました。

 閉ざされた経営会議の現場では許されるスタイルなのかもしれませんが、一般社員を前にした場の訳でもそういうスタイルを通すので、社内広報部門に陰では嫌われている通訳者もいるといいます。確かに、モチベーション向上のスピーチが、ダメ出し訓辞に訳されるのは好ましくありません。

 そういうクセが一番ふさわしくないのが、社外の人たちとの会議。ある時、自分と組んだ通訳者がアドルフ系だったので、年上の方ではありましたが、社外の人をお迎えしている場だったので意見させていただきました。しかし、"you" を「あなたがた」ではなく「みなさん」に変えていただけませんか?とお願いした時は、情けないものがありました。

 男女平等の世の中ですし、自分も男ですからあまり言いたくはありませんが、アドルフ通訳者を見て(聞いて)しまうと、やっぱり女性のほうが向いている職業なのか?と、つい考えてしまいます。ついでに学習院OGでもあるオノ・ヨーコが発言したと伝え聞く、女性のほうが能力が高いのにどうして男に合わせなきゃいけないの発言も思い出してしまいます。


 以上、ユーモアまじりに書いたつもりですが、不快感など持たれたれたら、ご勘弁ねがいます。

 ビジネス通訳をされた方であれば win-win の関係、といった表現を訳したことがあると思いますが、また来ていただきたいと思わせる通訳者というのは、サービス業に徹しているだけではなく、異なる立場の人間の視点や考え方を理解しているのではないでしょうか。その win-win にも込められていると思うのですが、相手の事情(経済的、経営的、人材的など)を理解した上で、自分も優位な条件を導き出す、ということだとも思います。

「S」クラス通訳者をお呼びしたケースでは、一見さん前提だったりもしましたが、「A」クラス通訳者の場合は普段も必要とするケースが多く指名して何度か来ていただいて会社の業務に関する知識が増えたらレギュラーのようにお呼びして、win-win な関係になれれば、と考えてはいますが、現実は厳しいようです。

 いや、厳しいのはお前だろう、という批判もあります。しかし、同時通訳ブース内で仕事をしている最中に携帯メールをしたり、明らかに大事な会議の事前資料を読んでなかったりといった基本的なことを確信犯的にして来ないようなモラルの人たちと一緒に仕事をしたいかといえば、正直、したくはありません。世間一般には同時通訳なんて特殊な人ができる高度なスキル、というイメージがありますが、ビジネスの現場での同時通訳なんて、男性で20代前半イケメン韓国系限定など非現実的なオーダーでない限り、英語に限れば出来る人はたくさんいます。(業界的には狭いと言われていますが。)

 また、会社として通訳者(業者)を呼んでいるということは、会社(役員)の時間とお金をつかっていることを意味しています。フリーランスでしか働いたことがない方には理解されづらい部分かもしれませんが、呼ばれた通訳者の方にしてみれば内包的かつ個人的なアサインメントかもしれませんが、呼ぶ側にしてみれば、会社の会議や仕事の効率をはかるために通訳サービスを購入しているのです。どんな買い物でもそうですが、同じ値段ならば、業務態度もよく、期待どおり(もしくは期待を超える)ようなサービスなり人物が望ましいのです。通訳者は個々人のフリーランサーかもしれませんが、発注側からすれば立派な企業間取引。なのですが、特殊能力でかつ個々人のレベルにバラつきがあり、業務態度なりインターパーソナル・スキル(平素の言葉遣い〜愛想の良し悪し)は個人事業者ゆえ派遣する側でもエージェントとして指導しかねるし、案件によって通訳ごとに難易度が異なり…、と貨幣という経済単位で購入するものでありながら、猥雑な迷宮にも似た世界が展開されているともいえるでしょう。個人としてなら楽しめても、会社を代表して発注する側になったら、楽しめるような混沌ではありません。

 あまりにもひどくて、その場で送り返したくなる通訳者もいます。お互いラクできるように、と複数の複数日に渡る出席者共通のアサインメントを同一の通訳者に依頼したことがありましたが、基本的な業務態度があまりに悪く初日だけでお断わりし、残りのアサインメントを別な方にさせていただいたこともあります。これはごく一例ですが、どうせなら同じ用語集で臨める同じ会社の案件ならば複数一括で引き受けた方が通訳者の側もラクだろうし、モチベーションも上がるだろうし、再指名の可能性や再指名できる人は歓迎というメタメッセージを理解してもらえるかなぁ、と一方的かもしれませんが、そう考えて行動したときほど裏目に出ることが多いようです。

 再指名したいくらい惚れ惚れとするような高いスキルは持っていたのに声が小さ過ぎたため、珍しく役員複数から一斉射撃的クレームを受けてしまった結果、再指名がかなわなかった、という人も1人いました。そう、通訳の質に関するクレームよりも断然多いのが、声の質に関するもの。聞こえない通訳(声の小さい通訳)はその場で言われます。声がでかすぎた場合には、後でこっそり注意もありますが、聞こえない場合は容赦なくその場で指摘されます。

 勝手な評論を展開しているように聞こえるかもしれませんが、自分なりに外部通訳者の権利は自分の権利よりも尊重しています。どんなにだらしない議事進行になっても、正午から1時間は必ず休憩させるため物理的にブースから出て外出するようにお願いしています。仮にそれが自分の休憩時間短縮や、独りで同時通訳を30分以上してしまうことを意味しても。また、午後5時で退出する必要がある場合には、時間前にそれが可能となるように通訳の順番や受け持ち時間の短縮をしたりと便宜は計ります。当たり前かもしれませんが、心配しながら通訳されてもいいことは無いと思うので。延長が可能だった場合、ちょっとオーバータイムを余計に請求するようしたり、30分未満オーバーした事実を把握しながら60分の延長でした、とエージェントに請求書を書かせたり、といったことはしています。コンプライアンス違反かもしれませんが、実際には少ない休憩で2名体制だったり、という通訳を請け負う側からすればとっくに違反していることも多いのですから、わずかでもねぎらえることはします。

 フリーの通訳者が初めての会社へ行って、そこの社内通訳者と組むというのは緊張したり、あまりやりやすい環境ではないかもしれませんが、同業者であるからこそ誉められる時は最大限の賛辞を送り、請求書は速やかに社内決済したり、支払を適切におこなったり、オーダーする場合でも社外通訳者を使うことに慣れていない部署の場合には、キャンセルしないと明言してもらってからエージェントに取り次いだり、と、見えない部分での気遣いはフリー経験者としてしています。(キャンセル料が発生しても、エージェントの手間賃にしかならなかったり、通訳者にキャンセル料が入ったとしても、1日分たった数千円ということもありますから。)

 味方なんだから分かってくれ、とは言いません。通訳バカに徹する職業意識もアリだと思います。でも、ちょっとだけ柔軟に考えたり人と接してみれば開けるつながりや(再)指名って、結構あるんじゃないかな、とも思うのです。もちろん、この会社、二度と来たくない、と嫌われてしまうケースもあるのでしょうが、会社の側では、案件発生ベースというゆるい関係でも、つながってくれる人が欲しい、と考えてたりするものなのです。企業だって、社外に理解者がいることは、うれしいことなのです。実績や評判、そして指名の多さは、プロ通訳者にとって決してマイナスにはならないと思います。だから、再指名につながらないような行動をあえて通訳者の側で取るのは、自分には不思議で不可解な行動のように見えてならないのです。

(完)

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2009年09月30日 05:55に投稿されたエントリーのページです。

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