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非常に気になる「非常に」の多用 もしくは「非常に」の間投詞化?

 今週NHKで放送された『視点・論点』の「WHO・新型インフルエンザ対策」と題された回に出演されたWHOメディカルオフィサーの進藤奈邦子さんの話を聴いていて、思わず「同時通訳者のような話し方だな」と苦笑してしまいました。

 とにかく「非常に」という表現を多用し、「あー」が多く、「とかー」や「もー」といった語尾(助詞)のばしもあって、「…の…」といったソラリスの海に浮かぶ島状態で発せられる接続詞など、とても事前に準備した内容でコラム的な意見などを自身の口から発表する場とは思えない“即興性”さえ感じました。

 まず先に、意地悪なカウントをさせていただきました。「非常に」を何度いったかを数えたところ13回でした。印象としてはもっと多用していたかと思いましたが、実質9分15分のなかで13回ですから、単純平均で約43秒に一度つかわれているだけでした。インフルエンザの話ですから、「インフルエンザ」とか「感染」といった言葉は繰り返し使われても気にならないのですが、汎用性が高い割には具体性に乏しい副詞としての「非常に」は、なぜか耳に残ります。

 その次に「えー」を何度いったかを数えたところ78回でした。あきらかに「えー」と言ったものもあれば、センテンスにまぎれこんで気にならない程度のものや短い「え」も含んでいますが、意味の無い間投詞として全てカウントしました。平均すると約7秒に1度の割合で「えー」が、「非常に」の約1/6の間隔(=約6倍の頻度)で連呼されているにもかかわらず、「非常に」ほど「えー」は耳障りには聴こえないようです。

 ちなみに進藤さんのお話は、出だし1分強は“非常に”安定していて「非常に」も「えー」もありませんでした。

 特徴的だったのは、進藤さんは「えー非常に」と組み合わせた発言も複数回されていたことです。こんな指摘をして何の意味があるの?と言われるかもしれませんが、個人的には「非常に」が間投詞化してきているようにも思え、その乱用(?)ぶりで、進藤さんの話が「同時通訳者的」に聴こえたとも思うのです。(反論の靴が飛んできそうな予感…。)

 もちろん、自分のことを棚に上げて他者の批判だけするつもりはありません。むしろ、進藤さんの話を聴いていて、参考になったと感謝しています。

 英語圏でも日本でも、無意味な間投詞はきちんとしたスピーチなどでは、入れるものではないとされていますし(バッグス・パニーや落語家は別として)、日本語の話し方教室へ行くと受講者が“語尾のばし”を注意されるのが現実です。自分も指摘されました。

 通訳者の場合、同時でも逐次でも、考えながら話す必要があるため、どうしても「えー」が出がちになることは、ある程度仕方がないと思います。よくないことですが、必ずしも通訳業務遂行のための環境が万全ではないこともありますから一様に批判されるべきものではありません。ただ、この人の通訳うまいな、とうっとりするような上級者の場合、「えー」や「といいますか」といった考えながら話していることがバレバレな表現をほとんど発していなかったりします。

 進藤さんが犯してしまったもうひとつの通訳者的なNGは、一瞬ではありますが、センテンスを途中で投げ出しそうになったところです。自分がアメリカのニュース番組を相手にシャドーイングしている時など、途中棄権しまくりのこともあるので、あまり大きな声では言えないことですが、人に聴かせる言葉や話をするのであれば、センテンスは途切れたりしないように注意する必要がありますし、同時通訳者の場合、話者が尻切れとんぼ状態で話を途中下車してしまっても、字幕でいうところの“—”(ダーシ)にはせず、一旦終了しました、と分かるよう語尾などでまとめる必要があります。真剣に話を聴いている人にとって、センテンスを途中で終えたかのような言い方は「非常に」より非常に気になるであろうことが分かりました。

 それでも、個人的な好みの問題もあるのは分かってはいるのですが、進藤さんのような「非常に」を非常に多用する言い方は気になります。ネット検索をすると、地方自治体でさえアンケートの回答項目に「非常に健康」という表現を使っていたりしますので、そういう用法もアリなのか、とあきらめ気分になりながらも「非常に健康的な」といった表現を見ると、非常に健全な印象も受けます。進藤さんは「非常に重症な(患者)」といった表現を二度されていました。へ理屈かもしれませんが、インフルエンザに感染し、何らかの症状があるから「患者」だと思うのです。その「患者」のなかでも症状が重い人を「重症」と呼ぶだろうに、重症よりもひどい「非常に重症」って、想像できそうで、意味がよくわかりません。非常に重症な場合「重篤」という、とまで書いてある辞書さえあります。(ちなみに進藤さんは重篤という表現を上記番組のなかでは使われませんでした。)なのに「非常に重症な」とは、どういう意味なのでしょうか。合計4度ほど進藤さんの話をビデオ再生して聴きましたが、具体的にどういうことなのか、分かりませんでした。

 通訳していて、自分もある時、ニュアンスや異文化間調整の意味も含めて「ちょっと」を多用していることに自分で気付いたこともあります。しかし、後々かんがえてみると、それは自分の通訳者としての経験や知識、はたまた語彙不足から来る部分も多いからだと重ねて反省したこともあります。それでも、"stakes are high" といった英語表現を日本語にしようとする場合、「非常に重要な」と、重要だけでは足りないような気持ちになり、つい「非常に」を付けてしまったことのある通訳者は自分だけではないと思います。また、余計な副詞を付けてしまい、その副詞の部分にツッコミを入れられて何度か失敗した経験があるためか、「非常に」のような副次的で、場合によっては話者や通訳者の都合でしかないような副詞が、体験的にも非常に気になるのです。

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コメント (6)

けい:

ついついやってしまう、間違いです。
でも、枕詞みたいになっていて、正しく話すと周りから浮く。
なんなんでしょうね。

Yoshi:

けいさん、コメントありがとうございます。
「さまざまな」も同様に、さまざま状況でさまざまな意味で、気になっております。

ミッキー:

新藤さんは実は学校の後輩です。(面識はありませんが。)幼少の弟さんを病気に奪われ医師になる決心をされた方です。

話すことを職業としない人に対して、アナウンサーのような話し方を期待するのはどうかと思いますが、誰にでも「癖」はあるでしょう。「無くて七癖」と言いますからね。

逐次通訳する時に、あまりの長文を訳出しなければならない場合、「あの~」とか「で、」で頭出ししてしまうこともよくあります。

「非常に」は私も多用気味。「とても」よりは文語的で使いやすいので。

Yoshi:

ミッキー様、

コメントありがとうございます。

アナウンサーのような話し方はアナウンサーにしか期待していませんし、むしろ普通に自分の言葉で話すことが許されている番組なのでもったいな、と感じたと同時に、自分も含めて通訳しゃべりって、こう聞こえているのかもしれないと、勉強になりました。

逐次通訳の頭出しにかんするコメントは参考になります。翻訳でも、英語にはない「さて、」「一方、」「また、」といった言葉を段落の頭に加えると読みやすくなったりしますから、聞き手の生理を考えると、そうなのだと思います。

このコメントを投稿した後、購入してあったデール・カーネギーの話し方本(ペーパーバック)を、人前で話すことと通訳することの参考になればと、読んでいます。

「非常に」は有用性の高い表現だと思います。ハ行で始まるのに聞き間違いされることもなく、ストレートに伝わる副詞で、尚かつパナガイド使用時のように声よりも息で通訳する際にも発音しやすいですから。ただ、意味のあることばなのですから、間投詞のように乱用した場合、違和感を覚える方も中にはいらっしゃるだろうな、と今回かんがえました。

(もし自分がテレビで顔出し通訳なんかさせられたら、進藤さんどころの話ではないであろうことは、自分がよくわかっております。)

ミッキー:

それにしても最近のアナウンサーはアナウンサーの資格を剥奪したくなるような話し方をする人が出てきましたね。やっぱり私はold schoolなのかなと思います。最近、癖になってしまったのが「いずれにしても」。だって、逐次通訳する時の1回の分量がとてつもなく多いのですもの。だから話している本人も「in any case」で始まる文で締めくくる傾向にあるのではないかと思ってます。意識している時は「あの~」とか「え~」は極力出さないようにしているのですが、丑三つ時の電話会議などになるとそこまでは気が回らなくなりますね。デール・カーネギーの本、読んでみようと思います。

Yoshi:

通訳者は、old school くらいでいいと思います。

デール・カーネギーの本、最初は成功した人たちのエピソードばかりなのでChapter OneはスキップしてもOKです。

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2009年07月18日 06:10に投稿されたエントリーのページです。

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