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派遣労働者の代表格(?)同時通訳者

 先日、落語を聴きに行き改めて通訳者と噺家は共通点が多い、と思いました。個人事業者で団結することがない。そもそも派遣労働者ですから呼ばれれば一人ででも仕事場へ出かける。でも、独演会のような仕事でも、前座さんと一緒に出かけたりで“ワークシェアリング”をしている。考えてみれば、同時通訳業務は一人ではできない、ってのも、デフォルトでワークシェアリングみたいなものです。まあ、通訳の場合、何人体制でどこのエージェントに頼むかで予算が違ってきますから、ワークはシェアしても、同じ給料なら、とか、シェアするならギャラ2割減でもOKとはならないのが通訳の現状ですが。噺家さんの場合、真打ちさんが前座さんは二ツ目さんといった後輩に食事をおごることはあっても、同時通訳者なら、派遣先から無料で昼食や水が提供されないとランクが上の人ほど不機嫌になるところは、水と油の違いです。時給換算では派遣労働者の中ではトップクラスの通訳者、この世界的な不況のなかで現行のビジネスモデルを維持できるのでしょうか?

 ただ、通常の派遣労働者とプロ(フリー)の通訳者の良い違いは、前者が派遣元からフォローされないに等しいのに比べ、通訳者の場合、パフォーマンスに関する賛辞苦情など、派遣先からの言い分や派遣された側の言い分を聞く必要などがあるため、派遣元(エージェント)が単純労働の派遣に比べると苦労するってのはあると思います。

 しかし、今日の国会でも舛添さんが言っていたように、労働者の搾取はいけないことなんです。でも、通訳エージェントなんて、搾取してナンボの世界。表現はよくありませんし、搾取イコール同時通訳者の搾取ではありませんので、上手な搾取というか、資本主義制度の根幹的意味における搾取というか。同時通訳者としてプロとして活躍することイコール、どこかのエージェント(単数ないし複数)に所属もしくは登録して働くことを意味する日本ですから問題にもなりませんが、やはりごくごく少数かもしれませんが通訳者によってはそういうエージェント制度に疑問を感じたりして独立する方もいるようです。(私のようにインハウスにこだわる変わり者は、ほとんどいないと思いますが。)

 日本でも既知の企業やクライアントを相手にして個人で通訳業を営んでいる方もいらっしゃいます。料金的には高めの設定になりますが、直接、案件としてできるものかどうかの判断も本人にしていただけますから、質的には安心です。エージェント(通訳会社)を通すと、登録通訳者から選ぶことができるというメリットは大きいし、東京以外の案件をレベルの高い通訳者でかためようとすると、ほぼ必須の要件でもあるのですが、手間はかかります。いろんな意味で。また、大手であっても、国際会議が多く開催されてしまってると通訳者不足になると、冷たく断られます。

 私が通訳のアレンジをしていた時は、エージェントにもよりますが、国際会議の経験も多くトップレベル(Sクラス)の人だと1日8〜10万円、そのすぐ下のAクラスだと5〜6万円でした。もちろんSクラスの場合、その人の経験年数や案件の難易度によっては10万円以上もアリなんでしょうが、あくまで、民間企業関係の案件で日中最高8時間拘束の場合、こういう請求書が来ます。当時つとめていた会社は優しくのんびりした会社でしたから、交通費も言われるままに別途支給していましたし、場合によっては役員と同じ待遇のホテル宿泊まで提供したことさえあります。

 多くのエージェントが月末締めで請求書を送ってきます。(小さい会社だと業務終了後、すぐに送って来たりします。)実際に通訳者が労働対価を受け取るのは早くてひと月たってから。自分の経験では、月末締めの翌々月払いってもありました。企業にはそのように定価なり企業別価格設定で請求書が送られて来るのですが、実際、各通訳者には細かいランク付けをしていたりします。経験年数や評判、指名実績など。場合によっては指名がある企業でのギャラが他社の場合より高かったり、ということもあります。ということは、単純に考えて、エージェントは上前を撥ねるものだし、どれだけマージンなり手数料を取るかというのも、エージェント次第だし、おそらくは個々人によって差を付けていることは間違いないでしょう。数回、社名を間違えるなど、プロとは思えない仕事をした人についてはエージェントに減額請求を要求したことがあります。細かい指摘ではなく、通訳者としての基本的な心構えやルールに反するものでした。固有名詞は用語集にもあってホームページでも公開しているものであれば正確に訳すなり発音すべきものを繰り返し間違っている、ということは、プロとしての業務態度に問題があるか、緊張しすぎて自分の訳している声が聞こえてないかのどちらか。とあるケースでは、Sクラスなのに声が緊張しすぎていて明らかに自分の訳を第三者的に聞く能力が欠けていたので、パフォーマンスへのクレームであると同時に、ああいう人をSクラスとして請求してくることに対する牽制でもありました。減額された分をそのまま通訳者へ転嫁するかしないかは、エージェントの判断になりますが、超ベテランのSクラス通訳者2名とクレームしたSクラス通訳者1名、企業への請求額が同じでも、手取りが各自同じとは思えなかったし、同じではいけない、とも思いました。

 場合によってはエージェントは企業搾取もします。通訳の発注やキャンセルなど、一般消費者とは関係のない世界ですので、クーリングオフ期間といった法律などもありません。ですからエージェントによっては、いったん発注をした案件については30日前からキャンセル料が発生します。多くのエージェントは1週間前とか10日前とかだったりするのに、某社だけは30日前から発生します。といっても、よっぽどの大型案件で特定の人材(専門性の高いSクラス)を確保しなくてはならないような依頼であれば理解しますが、普通のAクラスでまともな人であれば誰でもできるような案件をあえて31日以上前にアレンジするような人もいないとは思いますが、仮に29日前にキャンセルしたところで、アサインされていた通訳者にキャンセル料の一部が渡るとも思えません。

 別な言い方をすると、通訳エージェントは証券会社や保険会社並に、自分たちが損をしない仕組みになっています。発注側にはキャンセル料やその発生する時限なりルールを申し出るけれども、派遣される通訳者側にはゆるいルールしか適応しません。自分もフリーだったことこんなことがありました。実際、そんなことがあるので、フリーなんてしたくない、と思った経験でもあります。

 とある金曜日の夕方、連休明けの案件をドタキャンされました。営業日的には直前ですから、100%保証してもらいたいくらいでしたが、連休をはさんで5日前のキャンセルだったので、確か3千円くらいしかキャンセル料をいただくことができませんでした。それでも親しい企業の親しい部署の案件だったので、秘書さんが「それでも2万円キャンセル料、払ってるのよ」と言ったことから、通訳エージェントのキャンセル料カラクリを理解したのでした。某官庁街から少し離れたところにある江戸時代風に言えば、上屋敷があったようなロケーションにある某エージェントでの経験であって、同業他社がまったく同じようなことをしているのかはわかりませんが、駆け出しのスキルは高くない通訳者とはいえ、フリーしてたら事実上のドタキャンでも日当3,000円で文句が言えない世界とは。そんなんで、そんなフリー家業は止めて社内通訳に戻りました。実際、戻る前に夕方の会食通訳の打診だけされて、こっちはスケジュールを開けてあったにもかかわらず正式発注がないままキャンセルとなり、もちろんキャンセル料ゼロって案件もあったので、余計にフリーはもうしない、と思ってしまいました。

 ただ、別な言い方をすれば、そういった経験をしていたからこそ、仮に発注を間際にしてもキャンセル(特にドタキャン)だけはしないポリシーで発注していたので、どこにどう依頼してもキャンセル率はゼロの発注者でした。でも、エージェントの担当者によっては非常に不快なほど疑心暗鬼な人もいて「キャンセルしませんよね」といったことを平気で言う人もいるのは事実です。あれだけのキャンセル料設定をしておきながら。今の自分だったら「バカ野郎」って反論するかもしれませんが、あの当時は、自分もフリーで仕事していたので、と説明していました。そこまで登録もしくは専属通訳者のことを考えているエージェントならば、働く側には望ましいエージェントなのかもしれませんが。

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2009年01月19日 14:50に投稿されたエントリーのページです。

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