« 冠詞について | メイン | 正訳が誤訳になるとき »

雑音と同時通訳者

 今日、いつものように「浅草お茶の間寄席」(チバテレビ)を録画で見ていたときのこと。柳家さん吉さんが師匠である柳家小さんについて語った「小さんの思い出」という噺が放送されましたが、途中で見るのを止めました。理由は、柳家さん吉さんが話しながら扇子を少しだけ広げては閉じる時に出る雑音を出し続けていたからです。実際、浅草演芸ホールで聞いていたら気にならなかった程度の雑音なのかもしれませんが、マイクロフォンに近いところでパチン、パチンと扇子をいじられると、雑音は増幅されます。通常の落語ではなく、師匠との思い出を語る噺で、いつもと勝手が違って、無意識に扇子をいじっていたのでしょうが、同時通訳者として、常日頃、さまざまなノイズをかき分けながら話者の発言に耳を傾けているのですから、プライベートな時間にまで、耳障りな「音」に耐えなががら落語家の「声」を聴く気にはなれませんでした。

 マイクロフォンがひろいヘッドフォンを通して流れる発言を聞いてマイクロフォンに向かって通訳をするのが同時通訳です。「声」さえ聞こえれば同時通訳業務は可能ですが、マイクロフォンは声と同時にさまざまな音をひろいます。資料をめくる音、ボールペンをカチカチする音、私語など、社内通訳者やビジネス通訳者のするような同時通訳業務は、雑音との戦いでもあります。簡易通訳機(パナガイド等)を使う場合など、「声」よりも雑音のレベルのほうが高い前提で望むべきようなものです。

 同時通訳そのものが集中力を必要とするだけに、それだけでもストレスだらけですが、発言がよく聞こえなかったり、雑音が多い環境だと、精神的な負担は大きなものになります。

 通訳者でもiPodなどミュージックプレーヤーで音楽をよく聴いている人もいますが、ひどい環境で同時通訳業務をおこなった日など、音楽を聴くにもなれないこともよくあります。個人的には常にiPod nanoを携帯していますが。

 本当の意味でも絶対音感は持っていませんし、普段はテレビつけっぱなしでも平気だったりしますが、同時通訳で疲れると「音」や音階のある「音楽」は最悪の存在になります。そういった時、耳栓をして電車に乗るのも効果的だったりしますが、どうしても何かを聴きたい時は、iPod nanoに入れてある音階や声調の無い現代音楽を聴くことにしています。今年、ウィキペディアで「矢野顕子」を検索していて、なぜか行き着いて知ることとなったクセナキスの曲が最近のお気に入りです。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://bobbi.jp/adminsys-blog/mt-tb.cgi/88

コメント (2)

同時通訳エンジニア:

はじめまして、同時通訳のエンジニアをしている者です。「音」って凶器になりますよね。何気ない行動が非常にストレスになったり。エンジニアから一言。会議参加者の方へ。マイクは叩かないでください。通訳者は耳を叩かれているのと同じですから。

Yoshi:

同時通訳エンジニア 様

 はじめまして。適切なコメントありがとうございます。

『「音」って凶器になりますよね。』まさしく、です。

 社内通訳で会議室のブースに入って、プロの通訳者と組んだ時のこと。普段であれば部屋入りした時に幹事役の管理職が着席していると、通訳機器も含めてONになっていることが「普通」なのですが、その時だけ、ど忘れしていたみたいで、そのプロ通訳者さんがヘッドフォンを着用してスタンバっている最中に、立ち上げ時のものすごいノイズが部屋中と通訳用の音声に雷鳴のごとく響きました。

 自分は幸い、まだスタンバイしていなかったので大丈夫でしたが、プロ通訳者の方は、かなり耳にきたようでした。結果的には大丈夫だったようで、その日も調子がのってくると、いつものようにヒトラーの演説のごとく大声で通訳し、ヒトラー・モード(?)になると語尾も命令口調になる同時通訳をされました。

 通訳者は、話者の方々に協力をお願いする立場である以上、自分達の話す声に、本当はもっと責任を持たないといけないのですが、と、いつも自戒の念を込め、思っています。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2008年10月07日 20:54に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「冠詞について」です。

次の投稿は「正訳が誤訳になるとき」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。