« 2008年09月 | メイン | 2008年11月 »

2008年10月 アーカイブ

2008年10月01日

冠詞について

 押井守・岡部いさく著「戦争のリアル」の一節に、通訳者として身につまされるものがありましたので紹介します。

岡部ーー(略)新聞とかああいうところでよく言われるのは、戦争は必ず……とか、戦争になると弱者がとか……とか言うけど、そこの『戦争』っていうのが、じつは一般名詞の戦争なんですよ。書いたやつ、お前、一般名詞の戦争ってなんなんだよと。お前の知ってる、あるいは知ってる人にとって、伝聞の第二次大戦だけじゃんと。
 第二次大戦というのは、あれは「The War」であって定冠詞がつく固有名詞でなんですよね。戦争っていうのは、常に具体的な戦争しかないんであって、抽象的な「ある戦争」ってのは、史上起こったためしがない。
 すべての戦争が個々の事象なんですよ。そこのところを「戦争」ってのはひと括りにできると思ってる。たかが第二次大戦をやっただけ、しかも六〇年前の戦争ですよ。(pp.25-26)

 英語など冠詞/定冠詞のある言語に精通していたり、通訳をしていれば感覚や実体験でわかっていることなのかな、とも思いますが、この引用文の具体性が個人的には好きです。

続きを読む "冠詞について" »

2008年10月07日

雑音と同時通訳者

 今日、いつものように「浅草お茶の間寄席」(チバテレビ)を録画で見ていたときのこと。柳家さん吉さんが師匠である柳家小さんについて語った「小さんの思い出」という噺が放送されましたが、途中で見るのを止めました。理由は、柳家さん吉さんが話しながら扇子を少しだけ広げては閉じる時に出る雑音を出し続けていたからです。実際、浅草演芸ホールで聞いていたら気にならなかった程度の雑音なのかもしれませんが、マイクロフォンに近いところでパチン、パチンと扇子をいじられると、雑音は増幅されます。通常の落語ではなく、師匠との思い出を語る噺で、いつもと勝手が違って、無意識に扇子をいじっていたのでしょうが、同時通訳者として、常日頃、さまざまなノイズをかき分けながら話者の発言に耳を傾けているのですから、プライベートな時間にまで、耳障りな「音」に耐えなががら落語家の「声」を聴く気にはなれませんでした。

続きを読む "雑音と同時通訳者" »

2008年10月14日

正訳が誤訳になるとき

 東京大学の話です。新卒採用だったり、“お客様”としての法人だったり、社内通訳をしていると出てくる名前です。日本で長く働いている外国人のなかには "Todai" という呼称まで知っていたりします。(東京大学OBが本当に母校を「東大」と呼んでいるのか、という話はありますが。)

 東京大学の英語名は the University of Tokyo で、現役東大生が略して UT と呼んだりするのを聞いているので、通訳ブースにいて「東大」や「東京大学」という固有名詞が聞こえてきたら、「the University of Tokyo」と訳すのですが、英語で発言する日本人役員や東大卒の役員や社員までが「Tokyo University」と発言するので困ります。

続きを読む "正訳が誤訳になるとき" »

2008年10月18日

口調 - 綾小路きみまろが心がけていること

 以前、勤務していた会社の社長さんは、奥様を「うちのバアさん」と呼ぶ人。最初は誰のことだか想像がつかずに外国人エグゼクティブの通訳者として一瞬、かなり困ったことがありました。その社長さん、年齢的にご祖母が存命とは思えませんでしたが、お子さんから見てのご祖母であれば母君が存命の可能性もあるし、などといった思考が頭の中をめぐりました。結果的に奥様のことであることが分かったので事なきをえましたが、冷や汗ものでした。

 人には口癖があります。言葉遣いであったり、ボキャブラリーであったり。通訳者にもあります。自分は「〜と思います」をやや連発するクセがあるので気をつけていますが、話者のトーンや、聞き手が勘違いしない言葉遣いや口調を心がけています。

続きを読む "口調 - 綾小路きみまろが心がけていること" »

About 2008年10月

2008年10月にブログ「An Interpreter's Blog (通訳雑記帳)」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2008年09月です。

次のアーカイブは2008年11月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。