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落語と通訳

 最近、なぜか落語にちょっとだけはまってます。長瀬のドラマの時も、先月で終わったという朝の連続テレビ小説も、まるで興味はなく、一昨年あたりから知り合いがぽつぽつと寄席デビューしたと聞いても「ふ〜ん」という感じで《ブーム》とはかけ離れた生活をしていました。

 先日、以前は人が入らないことで有名だったという池袋演芸場デビュー。満席で補助席まで出ていてよかった。笑い声が大きいんです。しかも最近は若くなくなったせいか、笑い過ぎると涙まで出る始末。

 で、落語を聞いていてふと思いました。落語と通訳には共通点があるし、通訳者として学ぶべきこと、考えるべきことも多いな、と。特に、必然的な早口を早口と感じさせない話し方があるのだな、という点と、一人で別々の人間の発言を語る必要がある点において。

 逐次通訳で複数の発言者の言葉を訳す場合は、但し書き(ト書き)的な解説を入れることが可能ですが、同時通訳の場合はそうはいきません。するってぇーと、発言者がチェンジしても通訳者はチェンジしねぇんだな。通訳ってのは言われたことを訳しゃぁいいから、声色なんぞは使うもんじゃね。でもな、発言者が変わっても、あ、この通訳はきちんと発言者AからBに「訳」として移行してついていってるな、という安心感は聞き手に与えなくてはならねぇってことよ。実際はともかく、そういう心でやるもんさ。「役」じゃなくて、「訳」が肝心ってぇもんよ。

 真面目な話、英語でも日本語でも、発言者のトーンというものがあります。声の調子だったり抑揚だったり、ということ以前の表現の選び方など。例えば、一人だけ声高に "I believe" を連発する自信アリゲ男さんと、控えめに "would" "could" "might" "please" のような単語をよく使う控えめナンシーさんがいたとしたら、声色は使わないにしても、やっぱり訳出しをするにあたって助詞なり表現を多少は工夫し区別する必要はあると思うのです。

 いや、通訳は訳せばいい、という人もたくさんいらっしゃることとは思います。でも、ビジネスの現場での通訳なんて順調な時ばかりではありません。場合によってはTOBやM&Aなど、シビアな話だってあります。社内通訳者ならば、セクハラの証言まで訳すことだってあり得るのです。そんな際、ただ単に通訳バカとしてバカ正直に訳していればいい、というのは違うのではないか、と思うのです。きついことを言ってる人の発言は相応にきつく聞こえる訳である必要があるだろうし、セクハラの加害者が反省するそぶりも見せないで勝手なことをほざいているのであらば、ほざいているように訳さなくてはウソだと思うのです。極端な例ですが。

 通訳に話芸を持ち込め、というつもりはありません。同時通訳者で、訳にミッキー・マウスの声色を持ち込んだ人の訳を聞いてしまったことがあります。注意がモノマネにいってしまうので、ちょっといただけなかったし、自分も、逐次通訳で一度、発言者よりも上手に問題となっている「音」をやってしまったことがあります。「グウォー」みたいな重低音で、うまかった、おかしかったと「お褒め」の言葉はいただいたのですが、結局それしか印象に残らないようなものでしたから、通訳者としては失敗です。

 噺家さんのすごいところは、歌舞伎の女形さんとは違って、声を作らなくても「おまえさん」と言っただけで、おかみさんの声に聞こえてしまうこと。それに、なんとなく近いことができればいいな、と思いますし、ジョークは通訳を必要とする人にもしない人にも同じように笑ってもらいたい、と思うほうなので心がけてみたいと思います。

 最後に早口。噺家さんでもゆったりと語られる人もいらっしゃいますが、人によってはそれなりに早口な方もいます。でも、落語の早口はスピードと情報量の多さを感じさせないことが多いのです。落語歴1ヶ月ちょいの自分に解説は無理ですが、やはり、フレーズ単位、音単位の処理のうまさに、いい意味でのステレオタイプというか、anticipation を呼び起こすような言葉遣いというようなものもあるのでしょう。

 噺家と通訳者の共通点をもう一つだけ。経験の浅い人よりは、中堅以上の話の方が、聞き手の耳にすーっと入ってきます。前座さんの落語、最初はがんばれよ、って感じで聞くのですが、伝わってくるものがないと分かるや、正直なお客さんはプログラムに目をやったり、話に集中することを止めてしまいます。通訳者も伝わるように訳すのも仕事のうち。寄席で午後から夕方まで、ちょっと長めに「あそんで」、純粋なオーディエンスってのは、こんな感じで言葉に耳を傾けるものなんだ、と、場違いならが、そう遠くはない自分の職業と「お客さん」のことを考えてたのでした。

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2008年04月18日 22:50に投稿されたエントリーのページです。

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